〈空白〉
1.書類などの書き込むべきところに、何も書いてないこと。また、その部分。
2.継続しているものの一部分が欠けていること。何も存在しないこと。また、そのさま。ブランク。
数十年前から僕の記憶に時折混ざる空白
(勿論2の方ね)
原因ははっきりしている
そう酒だ
年齢と共に多少はマシになるかと思いきや
むしろ悪化してるのがタチが悪い
記憶の空白を時折繰り返しおおよそ三カ月に一度やらかす出来事
携帯電話の紛失・・・
その日は早朝ラッシュ前に電車に乗った事はうっすらと覚えている
“お客さん、終点ですよ”
という声で目覚めたのはJR吹田駅
記憶の中に数時間の空白が混ざっている
それでもまあ割と近場で助かったと思いポケットを探って感じた違和感の正体
“携帯がない・・・”
自分のバカさにげんなりしつつ
初めてではないのでやるべき事はわかっている
すぐに駅員さんに聞いたところでまだ届いていないだろう
一旦帰って立て直そう
(何をや?)
懲りる事無く乗りすごしを繰り返しどうにか辿り着いた最寄のJR塚口駅
少し時間がたったので念の為に改札で聞いてみるが
いまのところ忘れ物としては届いていないとの事
充分とは言えない睡眠をとり出勤しながら少しまともになった頭で考える
ポイントは二つ
・数時間たったし今なら届いてるかもしれない
・もしかしたら電車以外の所かもしれない
まずは新大阪駅にて駅員さんに尋ねてみる
“ここに連絡してください”
渡された小さなメモ用紙には忘れ物センターの情報が
連絡したいけど電話がないっちゅーねん!塚口駅はもっと優しかったぞ!
心の中でツッコミ前日の曖昧な記憶を元に
駅前のフードコート、前日に寄った(酔った)ところで聞いてみるも手掛かりらしきものはない
じっちゃんの名にかけてこの謎は・・・
ふざけている場合ではない
少しばかりの焦りと不安に包まれそうになった時に閃いた
今、何時半だ?
19:00過ぎならまだギリギリ間に合う筈だ
大急ぎでBAR“H”へと駆け込んだ
(時期が時期だけに20:00閉店)
“ジュンジュンタッケテ~”
“またですか?”
そう、携帯をなくす度にBAR“H”へと駆け込みJに携帯を借りているのだ
助けてと言っただけで全てを理解し
またですか?と返してくれるJはインテリジェンスレベルを上げたようだ
最近はすっかり呑み誘いにのってくれなくなり
Aさん曰く
“J最近彼女できたから調子こいてる”
という事らしいが
“今回はどこにかけたらいいんですか?”
閉店間際に押し掛けたメモを差し出す20歳も年上な僕に
Jは苦笑いをうかべながらも表情も声もいつも通り優しい
忘れ物センターに連絡してくれた後、携帯を預けてくれる
呑みの誘いを断ろうが、彼女ができようが、調子こいてようが
根っこは優しいままのJでよかったよ
僕は嬉しいよ
(俺マジで何様やねん)
携帯の特徴を伝える僕と電話の向こうで確認してくれるセンターのおねいさん
同じ機種!同じカバー!!待ち受けはじゃりん子チエの小鉄!!!
それは限りなく100%僕の携帯に間違いない筈だぁ!!
安堵した僕に半ば呆れたように笑いながらJが言う
“須藤さんこれ何回目でしたっけ?”
前回は高知一人旅の前日
飛行機、ホテル、全てのやり取りを携帯で行った為
データの全てが詰まった携帯をなくし
明日の旅行は終わったと途方にくれながらダメ元でドコモショップに行くと
行った事もなければ聞いた事もない“鴻池新田駅”から電波がでてるという
当時ランチをしていたBAR“H”に駆け込んで
鴻池新田駅の電話番号を調べて貰い、電話をかけて貰い
新大阪から鴻池新田駅までの行き方も調べてくれた
あの日のJも優しかった
3回目かなぁ~
という僕に
こんなんもありましたねぇ~
というJに聞いた忘れていたエピソードを思い出し少なくとも4回はあった事が判明
ポンコツですやん・・・
次の日に携帯を受け取りに行き事なきを得ました
三か月に一回はさすがにやりすぎとは思いますし
よく首から携帯ぶら下げたらと言われますが
僕みたいなもんはインテリジェンスとダンディズムしかないとされてるので?!
それもどうかいなと
(インテリジェンスもダンディズムも関係ないけど)
我ながら思う
反省もできないのはアホでしょ
同じ失敗を繰り返すのはバカでしょ
わかってる、わかってはいるけど
お酒が好き過ぎるのですよ
酔っぱけちまうんですよ
困ったこっちゃと思いつつ
それでも近い将来に僕はまた
記憶に空白が混ざり込んで
絶望と共にBAR“H”に駆け込む事になるでしょう
そして反省もなく繰り返す
“ジュンジュンタッケテ~”
“またですか?”
いつも通りの優しいJの顔が浮かぶ
2021 9 3 20:57
須藤 利浩