Dear 真夏の救世主

8月のある営業終わり

お客さんがいなくなった刹那

ソイツは突然やって来た

疲労と睡魔でボヤけた筈の脳が明確に認識した心のシグナル

サケガノミタイ…ダレニモアイタクナイ…

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ソイツは春もしくは秋にやってくる

自分を認めてやれない自分を許してやれないような感情

ただただ堕ちていく感覚

暑過ぎる夏の灼熱の太陽は何かを起こすらしい

とはいえそれは華やかでいて猥雑な海辺の男女間の物語であり

甲子園球場において高校球児達がおりなす感動のドラマであって

ジジイの内面にセンシティブな影を落とす類いのものではない筈だが

起こってしまったのならば受け入れざるをえまい

ジタバタとあがいたとてどうなるものでもない事は経験上わかっている故に

ここのところあまり状態がよろしくなかった事も考慮して堕ちる事にした

ソイツのタチの悪さは理由がないという事だ

それなりっぽく戻るまで長くかかるかどうかはその時次第

それまで息を潜めて黙ってやり過ごすしかあるまい

どうやらやっと得たように感じたごく小さな希望とも想えたそれは

俺には分不相応の代物だったらしい…

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店を閉めて酒を買いに行く

早朝とはいえ日差しはまごう事なき夏にも関わらず

気配すら感じない秋を冠した“秋味”なる麦酒を大量に買い込み

お気に入りウイスキーのチェイサーにしてダブル主役として無人のカウンターで呑み始める

酔いが加速度を増すばかりでまとまらない考えに結論のでよう筈もない

わかりきった事だ

ネガティブなだけで何の意味も持たない言葉のカケラが溢れて

カウンターの上を煙草の煙と共に漂う

“帰る”という選択を選ぶ気にもなれずに何かを抱えて堕ちていく

この気持ち悪い空間に不快感は感じるのだが全くもって違和感はない

ふと思いついた癒しの場所は家族旅行とやらで当分開いてないらしい

それならばと癒しのあの人に出動願うかと心をよぎりもしたが

超がつくほどの恐妻家の彼が嫁に怒られるのは僕の本意ではない

最早酔いが全てを覆い尽くすのを待つほかなかろう

そのために買った酒だろうさ…

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翌日、時間ギリギリに新大阪から店へといつも通り徒歩で向かう

頭なのか心なのか不愉快極まりない靄がかかっているが遅刻してないだけ上出来だ

その時鳴った携帯電話の画面に表示された名前をみて絶句

ムロタン!!

そう癒しのあの人だ

「須藤くん今どこ?」

最初の一言で何かが少しだけほどけた感覚を覚える

我が店で合流して用事を済ませた後

そのまま呑んでいってくれる事になり一緒に呑みだす

他愛のない話を心地よく話しながら

“どっか呑みに行こうや”の台詞が喉元まで出てきてはいるのだが

土曜日営業をトバすのは少々気が引ける

そうこうしてるうちに週末らしくお客さんが増えだしてムロタンのエンジンがかかりだす

カウンターが一つになって大きなうねりが起こり笑いで溢れる

日付が変わった頃にピークをむかえ楽しい余韻を残しお客さんはいなくなった

その後もよい流れを保ったままポツポツとお客さんがやってきてよい営業が出来たと

終わりかけた無人の店内で充実感に浸りかけた時

ご機嫌すぎる近隣の同業者達を引き連れ再び彼は登場した

早朝の狂騒ともいえる宴が始まりそして楽し過ぎた今日は終わりをむかえる

片付けを終わらせ充実感に浸りながら彼が起きるのを待つ

そう!彼は狂った時間の大半を寝落ちしていたのだ

ようやく起きた彼は晴れやかな俺とは正反対な顔をして

“怒られる”と連呼していた

駅まで一緒に帰りつつ別れ際に今日のは人助けだからと

“ムロタンがあまり怒られませんよう”にとお祈りしましたとさ

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翌日、朝の狂騒を共有したカルーが

フラフラですわと言いながらまた朝方にやって来て二人で呑んだ

その翌日は呑みに来てくれていたトモさんが異変を察知してくれたのか誘いだしてくれて

家族旅行で閉まっていたRimで一緒に呑んだ

そして営業終わり性懲りもなくRimに舞い戻り久々の一人外呑みを満喫した

またその翌日は営業前に十代からのツレであり俺を飲食の世界に引き込んだ張本人トモヒロの新職場

本町にある魚菜 さか蔵にて久しぶりに顔を合わせて呑んだ

その日の営業でラストまで呑んでいたフジタに誘われ数年ぶりに天満のひろやにてご機嫌サシ呑みして

次の日はポンちゃんと閉店後の当店にて呑み

その次の日は数ヶ月ぶりのモリヤマとしこたま呑んで

勢いそのままタイショーのWeekラストデーに顔だして最後な空間を共有できた

なかなかに狂気な一週間でございました

それにしてもようけ呑んだな…

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ソイツはいつのまにか消えていた

いや、消える事はないのだろう

ソイツは俺の一部であってそうであるならソイツとは間違いなく俺でしかありえないのだから

また突然ソイツはやってきてまた俺は堕ちるのだろう

そしてその時もまた色々な人に引き上げてもらう事になるのだろう

ありがたいこっちゃ

堕ちながら笑い酔いながら狂うご機嫌でいて極めて意味のある一週間でした

関わって頂いた真夏の救世主のみなさん本当に本当にありがとうございました

今そんな事を考えながら“俺は大丈夫”と笑ってる

それが今俺の全てでしょ♪

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2025 9 6 11:17am

須藤 利浩