死神に見捨てられ拾った命を大切に~事故~

“見た”というよりは“感じた”という方が近い気がする…

12月2日に僕を一瞬にして包み込んだ白い光。

優しさ・厳しさ・温かさ・冷たさ…あらゆる感情もなく身体は宙を舞った。

次の刹那、僕が感じたのは脇腹から背中にかけての尋常じゃない衝撃!

ほんの僅かだけ遅れて全てを呑み込んだ“痛み”は

「夢ならいいのに…」という切なる願いを一瞬にしてリアルへと引き戻した。

正気に戻りきれない頭でかすかに確実につぶやいた一言

「死神かよ…」

 

数ヶ月前から生活サイクルは狂っていた。

1日単位ではなくなり、全く寝ない日の次の日にある程度寝てなんとか次の日をやり過ごすような生活

2日単位の生活が続いていたのが、3日単位、4日単位と加速する狂気から目をそらし

体力に対する過信が“まあいっか”と思わせ疲れを蓄積させていたのだろう。

無茶をした体力の回復もままならないまま、酒に溺れほぼ寝る事なく営業を続けたある朝と昼の間

ノリでナイルパーチ富樫と阪神競馬場へ行く事になった僕の記憶は西宮北口から宝塚行きの電車の中で途絶えた。

破壊的な睡魔によって完全に堕ちてしまったのだ。

 

気がつくと駅のホームを歩いていた。

既にアルコールは感じないが“?”で覆われた頭を整理する。

“ここ”はどこだ?反対ホームの駅名を見るためにホームの際まで歩く

“宝塚南口”

寝過ごして慌てて降りたなんのゆかりもない駅、富樫はいない。

しんどすぎるし帰ろうかと何故か回れ右をしてしまった左足に地面はなかった…

ヤバいと思う間もなく転落する身体。

咄嗟に頭をかばい、身体をひねった脇腹から背中にかけてをレールで強打した!

息が出来ない!線路上の石の冷たさは思いの他残酷だ。

グズグズはしていられない。“死”が一瞬頭をよぎる。

線路脇の隙間にどうにか這い込んで、痛みをこらえ動けるだけの呼吸を取り戻す。

電車が来ないのを確かめ、線路に這い出てどうにか立ち上がって絶句。

高い…

ホームの高さは顔と胸の間。普段なら何てことない高さに絶望を感じ数秒途方に暮れたがこうしてはいられない。

足を掛けれるところを見つけどうにか転がり上がり、ホームの奥まで行って足を投げ出しへたりこんだ。

もう立つ気力は残っていない…

 

「大丈夫ですか?」と2、3人に声をかけられるが、声をだすのも億劫で唯々手で制す。

大丈夫ならこんなところにへたりこんで恥はさらすまいに…

そうこうしてるうちに駅員さんが駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?」
「・・・」

“痛い”と“帰りたい”以外を考えられない。

早く帰って休まないと今日の営業が…

断っているうちに駅員さんが次々代わって偉そうな人になり

3人目だか4人目の駅員さんが優しくいった。

「今確認しましたが落ちた場所には何もありませんでした」
「こちらとしては責任は負えませんができる限りの事はさせて貰います」
「帰るにしても心配ですし、北口の駅長室で休みませんか」

甘えさせて貰う事にして、西宮北口の駅長室まで付き添って貰う。

ベッドに横になるのも痛すぎで一苦労。

10分、30分、1時間…

引く気配のない痛みに、ただ事じゃない事を自覚せざるをえない

やはり救急車を呼んで貰う事にする。

生涯初の車椅子にて救急車まで運んで貰い、生涯初の救急車に乗る。

どうにか痛みを我慢して横になったストレッチャーの上で走り出した救急車の中、まだリアリティーの薄いサイレンを耳にしながら

初めて電車が来なくてよかったという安堵感と

自分の身体がどうなっているのかという限りなく恐怖に覆われた不安を感じていた・・・

 

病院に到着。

まずはCTをとってもらい、続けてレントゲンをとる。

待つこと数分。

祈り続ける僕に先生が告げる。

「肋骨が3本折れてますね」

感情をあまり出さない先生の声は説得力に溢れていた。

想定内だ。そりゃそーだろうこの痛みだ!折れてない方がどうかしてるさ…

「それと深刻なのが…」

きた!!

真っ白なのか真っ黒なのか目の前の色が消える…

「腎臓から出血してますね。大量ではないので明日まで様子を見ないと何ともいえませんがとりあえず絶対安静なのでこのまま入院して下さい」

入院!店は!!周年!!!

絶望の中で話は続く

「あと、打撲の衝撃で肺に水が溜まってます。少し傷もついてるようですね。あっ背骨も少し折れてますね。まあこの辺は安静にしてれば治りますが…」

現実を受け止めきれないまま、気になるのは1点だけ!どうにか声を搾り出した。

「どれぐらいで退院できますか?」

先生の無感情な声に僅かに同情が入るのがわかる…

「このままなら早くて2週間ぐらいで退院出来るかもしれませんが、ただ…」

え…

「骨の奥の臓器が傷ついてるんで、他の臓器にも傷がある可能性があります。臓器はすぐに症状がでない事があるんで、もし肝臓やすい臓、十二指腸なんかにも傷があればすぐに手術って事になりますし…」
「いずれにせよ明日もう1度検査してみない事には何とも言えませんね」

一旦心をへし折られながらも祈りは続く…

 

まずは入院の手続きと実家に電話。

この歳にして、この手の電話はしたくなかったが自業自得だ…仕方あるまい。

後は今日の臨時休業のお知らせをFB&twitterにて…情けない。

明日は某店の10周年に行こうとしたデートのキャンセルを…終わってるな。

明日は“ヒッキーDAY”だからいいとして、明後日からの営業をどうするか?

ヒッキーと富樫にお願いしてみよう…

どうにか受け入れた現実でキャパオーバー気味になり、

痛みで全く働かない脳をフル回転させてやるべき事を上記4つの事に絞り込むが

寝たきりで触る携帯電話は思いの他体力の消耗が激しい…

 

思いついたするべき連絡は終わった。

もう脳は働かない、体力は残ってるが気力がない、とにかく疲れた

ゆっくりと睡魔がやってくるので身を委ねる事にしよう

薄れゆく意識の中で思い出した。

あの“白い光”は昔4年ローンで買った愛車“スープラ”を2年経ったある日

ガードレールにぶつけ大破させた時に見たような感じたような。

やっぱり死神か・・・

 

2013 1 8 11 10

須藤 利浩