“チャンピオン”いい響きですね♪
チャンピオンがなぜ偉大かはボクシングを例にすると解りやすいですね
ランキングと言うのは順位であり1位はいる訳ですが実質は1位ではない
なぜなら1位の上にチャンピオンがいるのだから…
1位の上ですよ!色々な物や事を想い、背負い、成り立つものでしょう
数年前、働いていた店で2回目のアルバイト募集をした時
30人以上の面接をしたのですが自分の基準は割と明確でした
男ならソコソコに男前で面白そうな奴・女はズバリ可愛い娘・後は喋ってみた感覚
その時周りの反対に
“これは相談じゃなくて決定事項やから”
と1人だけフライングで採用したのがSでした
初対面から気が合ったのか面接は通常の3倍の時間を要し何故か雑談メインだった
Sは荷上げ屋という現場あがり故、叩いても叩いても潰れないメンタルの強さを持ち
仕事においても向上心が強く独自に“イタリアン巡り”をして引き出しを増やしつつ
趣味は“ナンパ”という底抜けに明るい人柄でみるみる主力スタッフとなってくれた
直後の降格人事によって“1スタッフと特別仲良くはならない”という
自分の中の決め事をなくした僕と
(この降格人事に1人憤慨してくれたのもSでした)
上記の経緯によって入ったSが仲良くなるのに時間はかからなかった
頑張りにギャラで応えてやれない心苦しさとSがすぐ近くに引越してきた手軽さで
ほぼ毎晩2人で呑んだくれるようになった
(まあオモロかったからって理由が大半やけどね)
そんなある日、いつもの如く最近の店事情についてバッチバチにダメ出しを…ってか悪口やなありゃ
本人曰く
“僕は女の胸部と局部の事しか考えてませんからねぇ~そら常に研ぎ澄まされてますから頭の回転は早いですよ”
という事らしい
最後に“結局みんなおもんないのが駄目っすよ”
と吐き捨てた彼に、ふと疑問を抱いた僕が訪ねた
「みんなおもんないって言うけどお前はそんなおもろいんかいな」
「そりゃ~僕はおもろいっすよ!」
「ふ~ん、例えばほな高校でい~や、学校では1番おもろかったん?」
「は?学校?そんなもん当たり前ですよ!」
「ほぉ~そら大したもんやん!ほな学校ではSって言えば割とみんな知ってたんや!」
「は?別にそんな事ないっすけど、そら僕が1番おもしろいですよ!」
「いやいやお前・・・」
「1番って事はチャンピオンですよ!おもしろチャンピオンですよ!」
「いやいや・・・」
「1年の時からチャンピオンでその時3年がいて僕が3年の時の1年がいるから僕は5期に渡ってチャンピオンって事ですやん!それから今まで防衛中ですからね!」
「いやい・・・」
「いや~やっぱ僕は凄いですねぇ~チャンピオンですからねぇ~これからは分かり易くチャンピオンって名乗らんとダメですね」
「・・・」
呆れかえる僕を尻目に一切笑う事なく真顔でチャンピオンを連呼していたSは
本当に至る場所・場面で誰彼構わず自らを“チャンピオン”と呼ぶようになった
因みに会話の流れで聞いたところによると
店で1番面白いのは当然Sでずっと離れた2番目に面白いのは自分らしい
理由は“使い勝手がいい”との事
いやいや、俺上司やで…
そんなSが店をそろそろ辞めようと思うと言い出したのは
肌寒い北風が吹く頃に2人で熱燗を呑んでいた頃だったか…
もうこの店で学べる事もないし魅力がない、店に魅力がないのはいいにしても今のすーさん全く魅力ないっすやん!
僕に止める理由はなく言い返す言葉もなかった
降格以降死んだようにただ“こなす”だけの仕事をしている自覚はあった
店の状況は色々と変わっていったが、それが悪い方向へ行っている事も感じていた
Sだけでなく何人かのスタッフに具体的なお願いをされる事もあったが
それでも僕は“立場”を言い訳に動かなかった
ただ、呑むたびにそんなやり取りを繰り返しながらもSが辞める事はなかった
理由は恐らく1つ。辞められると僕が困るから
役割上Sが辞めるとその負担はほぼ僕にかかってくる事は火を見るより明らかだったのだ
そして心地よい春風がうっすら熱気を纏い汗ばむ陽気な日が増えた頃
立場の問題で店近くの借りて貰っていたマンションを引払い
終電で帰るのがメインとなり少し減ったものの週の半分は2人で呑んでいたのだが
ある日店の現状の不満をブチまける僕に冷静に現状を諭すようにSが言った
“潰れないっすよ。だってすーさんいますやん。なんやかんや言って結局すーさんがやるんでしょ”
はっとした。目からウロコというやつだ
その通りじゃないか!じゃあ俺は何の為に働いてるんだ!
…居すぎたな…
何かを辞めるという事は時として何かを始める事よりもエネルギーがいる事がある
結婚と離婚がまさにそうだろう
(両方した事ないけどね♪)
そして真実は得てして想定しうる最悪のケースであることが多い
(例えば浮気とかね♪したことないけど?!)
“辞めよう”という想いを消せず迷いを抱えたまま生産性のない日々をおくっていた
その日は日差しが強く歩くだけで汗が流れ落ちる、空の青さは疑いようのない夏を告げていた
赤信号に行く手を阻まれ何気なく視線を移した僕の目に飛び込んできた景色…
近頃なんとなくおかしいなという違和感はあったが
次々発覚する想像以上の嘘と裏切り
絶望はなかったが全ての感情は怒りとなって溢れ出した
…辞めるしかねーな。望み通りだ…
最初に打ち明けた相手はやはりSだった
「S、すまん!俺辞めるわ!」
「マジっすか!僕が辞めるって言ってたのに先に辞めるとかないわ!」
「ん”…」
「すーさんいないなら僕おる意味ないっすやん」
「ん”~でももう無理やわ。これ以上いたらホンマのアホになってまうわ」
「まぁそらそうっすね。じゃあ僕も辞めますわ」
「・・・」
次の日僕は来月一杯で辞める旨を会社に伝えた
Sはそれなりの好条件を提示されたようだが
(僕の後釜的な役割として残したかったのだろう)
頑なに断り次月末日に二人して辞める事となった
辞めることが確定し引き継ぎ業務に明け暮れていたが
相も変わらず二人して呑んでいた
仕事後に居酒屋を経て、Sの家で呑んでいた時
まだ、たいして酔っていない筈のSが突然言い出した
「あっ僕この部屋来月で解約しよ!」
「え?ほなお前部屋どーするん?」
「大丈夫っすよ!女見つけて転がり込みます」
「マジか?見つからんかったらどーすんねん?」
「は?すーさんバカだなぁ~僕はチャンピオンですよ!」
「はぁ・・・」
「見つからん筈ないっすやん!」
「はぁ・・・」
「いや~やっぱり僕は頭いいですね~」
「・・・」
そもそも埼玉出身のSは安田美紗子に魅せられ
“京都の彼女っていーじゃないか!”
と、それだけで京都にきて彼女をつくって別れて大阪に流れて来たらしい
ありえない話ではない
が、僕は直感した
こいつ絶対俺ん家に転がり込んでくるな…
その後も色々あった
辞めた翌日に自分の人生において
恐らく唯一最初で最後になるであろう名前が無くなった日…255?!
(そら最後にしてほしいわ)
その原因を作ったのはSだったし
アルコールDAYと称して
平日の昼前から新大阪の駅で呑み
河川敷でLOVE SONGしましょう!というSの謎提案で
しこたまビールを買い込み淀川にて呑み&昼寝を経て
伊丹・夙川・甲子園口・JR尼崎と移動しながら呑んだくれること十数件
最後に何故か最寄りの隣駅からワンカップ両手に歩きつ呑みつ
歓喜の叫びを上げながら2人で我が家に辿り着いたその日から
予想通り奇妙な共同生活が始まった
一軒家に男二人お互いに仕事はない…
自分の人生の中でもかなり特殊な2週間ちょい
濃密といえば濃密な何もないといえば何もない唯々面白いだけの時間
急に東京で保険の仕事をすると訳の解らない事を言い出したSを駅まで見送ったのは
梅田のWINSにて二人、秋の天皇賞で撃沈した
文字通り肌寒い秋風の吹く頃だった
その後、Sは開店した僕の店に東京から数回来てくれた
去年の事故の際はSの保険のおかげで随分助かった
ただ、病院のベッドから連絡したきり約1年
Sとは連絡がついていない…
お~い!シノバよ!
お前と家で呑んだくれながらじゃりんこチエ観て名付けたクレイムーンは2周年やぞ!
めっちゃ厳しいしギリギリや!
いつまであるかわからんぞ?!
お前も厳しいかもしらんけどよ!
元気でやってるならえーけどや!
メールできへんのも、電話でれんのもえーけどや!
たまには連絡してこいっちゅーねん!!!!!!!
BAR CLAYMOON2周年14日か15日
いや他の日でもいーや
来てくれたら嬉しいけど…
無理やろなぁ~
チャンピオンはいずこへ行ったやら・・・
2013 12 10 6:24
須藤 利浩